昨今の流行でもあるDual Energy CT。
Dual Energyと略して呼ぶことが多いですが、ここではDECTと略します。
CTに関する学会の演題も、大半が逐次近似再構成法の話かDECTの話、と言っても過言ではないでしょう。
今回は、そのDECTについて基礎的な部分を解説します。
CTの歴史について軽く振り返り
1971年にCTの臨床利用が始まって以来、その技術的進化は凄まじいものです。
2000年頃にマルチスライスCTが出現、2010年頃にはIRを取り入れた再構成法が出始めました。IRによるノイズ低減技術は、被ばく線量の高いCTにとって非常に有用であると言えます。現在はDeep Learning技術を用いた更なるノイズ低減技術も増えてきました。
この技術発展の中、DECTは2005年頃に登場しました。
CTってそもそもどんな画像?
CTの画像は、CT値で表示されます。
CT値とは簡単に言うと、水の線減弱係数との相対値です。
水の線減弱係数を0としたときに、その物質の線減弱係数は相対的にいくらか、ということになります。
この線減弱係数について抑えておくことが、DECTを理解するためには必須です。
DECTが出てくるまでの限界点
Energyとは日本語でエネルギーという意味を持ちます。ここでは管電圧を表すこととします。
DECTは、2種類の管電圧を用いて撮像を行うことができる装置となります。
言うまでもなく、DECTが出てくるまでは、Single Energy CT(以下SECT)でした。つまり、撮像時、1種類のエネルギー帯しか使うことができませんでした。
(主に120kVpを使用)
ここで迎える限界は、異なる物質でもCT値が同じになってしまうことがある点です。CT値が同じであれば、近接している場合コントラストがつかなくなってしまいます。例えば教科書なんかには、筋肉や血液は同じくらいのCT値を示すと書かれているでしょう。
なぜ異なる物質なのにCT値が同じになってしまう?
前述した線減弱係数に原因があります。
線減弱係数は物質の質量減弱係数と密度の積で表されます。
この質量減弱係数は物質固有のものとなりますが、密度はバラバラですよね。
質量減弱係数が小さく密度が大きい物質と、質量減弱係数が大きく密度が小さい物質の
線減弱係数は同じになってしまうわけです。
DECTはこの点を限界突破した
質量減弱係数は物質固有のものであると説明しました。
質量減弱係数にはエネルギー依存性があります。この依存性も物質によって異なります。
つまり、異なる管電圧のX線を用いて
撮像すれば、質量減弱係数が変わるため、物質によってCT値がそれぞれ変動します。
質量減弱係数の変化率を応用したのが、DECTです。
DECTで出来ること
仮想単色X線画像の作成
仮想単色X線画像は,低~高エネルギーにおける任意のX線エネルギーの画像を作成することができる。
低keV画像(低エネルギー画像)ではコントラストが向上し,低管電圧撮影と同様の効果が期待できる。
仮想単色X線画像(VMI:Virtual Monochromatic Imaging)は、収集したデータから作成できるため、臨床的有効性が報告されています。
仮想、と言われる由縁はここにあります。「実際にその管電圧で撮像したわけではないけど、仮にその管電圧で撮像したらこんな画像が想定されますよ」といった感じです。
通常、管電圧の単位はkVpを使用しますが、VMIでは想定した管電圧をkeVと称します。
(設定光子エネルギー)
低keV画像を用いれば造影効果の上昇(または造影剤量の低減)が期待できますし、高keV画像を用いれば金属アーチファクトの低減を図れます。
また、造影画像から造影成分を仮想的に除去した仮想非造影画像(VNC:Virtual NonContrastimage)を作成することも可能です。
物質弁別
物質弁別(密度)画像は,特定の物質を強調,あるいは抑制して画像化することができる。
ヨード/水密度画像は,ヨード密度を強調して水密度を抑制した画像であり,異所性甲状腺の診断や肺のperfusionの評価,がんの治療効果判定などにも有用である。(中略)
物質弁別(密度)画像は,ヨード/水密度画像以外にもさまざまな画像が作成できる。水/ヨード密度画像は,造影CTのヨードを抑制した仮想単純CT画像であり,胆石と胆囊ポリープの鑑別に有用である。
(中略)
さらに,実効原子番号を解析し,それに基づいた物質弁別も可能である。
SECTでは分からなかった物質の種類が分かるようになります。
物質弁別には主に、”3 Material Decomposition法”という手法が用いられます。
Three-material decompositionは,組織中の脂肪と軟部組織と造影剤の3つの異なる組成のCT値を識別し,ヨード造影剤量を測定することができる。