基礎知識

放射線と放射線被ばくについて現役放射線技師が解説します

2011年の原発事故以来、”放射線被ばく”というのは国民の関心事の一つとなりました。

しかし、そもそも被ばくとは何なのか、知識がない方も少なくはないと思います。

そこで、今回は放射線被ばくについて解説をします。

そもそも放射線とは

人は自分の知らないものに恐怖を覚える傾向があると考えています。

そもそも放射線が何なのかについて簡単に記載します。

放射線とは、放射性物質または放射線発生装置から放出される粒子や電磁波のことを指します。

ただし、粒子は物凄く小さいため肉眼どころか顕微鏡でも見ることはできません。電磁波も光の一種ですが、人間の目で見える範囲(可視光の領域)ではありませんので、見れません。

つまり、放射線は直接目で見ることができません。恐怖を覚える理由の一つがここにあると考えます。

次に、放射線の種類について簡単に書きます。
放射線には、粒子の流れであるアルファ線(α線)・ベータ線(β線)・中性子線(n)などと、電磁波であるガンマ線(γ線)・エックス線(X線)があります。

放射線の発生機序によって、名称が変わるため、このような分類がされています。

放射線はどうやって発生する?

放射線は放射性物質または放射線発生装置から発生します。

放射性物質について

放射性物質とは、放射能を持つ物質のことです。放射能とは、放射線を出す力、と考えてください。

つまり、放射線を出す力のある物質のことです。

ある放射性物質が放射線を出す際、エネルギー壊変といって、エネルギーを出しながら違う物質へ変化します。このエネルギーの一部がいわゆる放射線です。壊変の仕方によってα線やβ線など、名称が変わります。

東日本大震災のときに有名になったセシウムやヨウ素が、いわゆる放射性物質です。

放射線発生装置について

放射線発生装置は意外と色々なところにあるのですが、一番メジャーで分かりやすいのはレントゲンの装置です。

放射線技師以外の方にも分かりやすく説明すると、下図のここが放射線発生装置に当たります。(正確には少し違いますが、ここから放射線が出ます。)

X線を極めたモダリティ群

他にも、空港の荷物検査に使われていますね。

チェックインカウンター

放射線発生装置で人工的に発生させた放射線はX線と呼びます。

被ばくの定義について

言葉の定義からいきましょう。

被ばくとは、放射線を人体に受けることです。

被ばくをすると、放射線が持つエネルギーの一部が人体に吸収されます。吸収されなかった分は、そのまま通過します。

吸収されたエネルギーは人体に作用するため、被ばくが問題視されるわけです。

被ばく量を決める因子

被ばくする範囲

全身に被ばくするか、部分的に被ばくするかで分類します。

前者は全身被ばくと呼ばれ、全ての臓器に障害が起きる可能性があります。

一方後者は部分被ばくと呼ばれ、被ばくした部分のみ障害が起きる可能性があります。

被ばくの仕方

外部から被ばくをするか、内部(体内)からの被ばくをするかで分類します。

前者は外部被ばくと呼ばれ、言葉通り身体の外から放射線を受けます。

レントゲンやCT検査など、X線を使う検査については外部被ばくをします。

後者は内部被ばくと呼ばれ、放射性物質を体内に取り込んだ際に起きます。

具体的な侵入経路としては、鼻や口からの吸入・経口摂取などです。
(なので、これらの物質の中には排泄されるものもあります。)

内部被ばくをする代表的な検査は、核医学検査です。

被ばくする時間

短時間の間に大量の放射線を浴びた場合、急性被ばくといいます。これは、原爆や原発事故などで見受けられます。

一方、長期間に渡って被ばくした場合、慢性被ばくといいます。職業被ばくなどはこれに該当します。

職業被ばくは、診療放射線技師のような放射線業務従事者が、業務の際に受ける被ばくのことを言います。

仮に被ばくした放射線量が同じだとした場合、人体への影響は、慢性被ばくよりも急性被ばくの方が大きくなります。

放射線の単位はベクレル?グレイ?シーベルト?

放射線にまつわる単位にはいくつかの種類があります。

ベクレル(Bq)、グレイ(Gy)、シーベルト(Sv)などです。

分かりやすい単位を用いると、Bq=s^-1、Gy=J/kg、Sv=J/kgです。

ベクレル(Bq) 1秒間にどれだけ原子核が崩壊するか。
(ある物質における放射能の強さを表す)
グレイ(Gy) 放射線から物体に与えられたエネルギー。
吸収線量にも用いる。
シーベルト(Sv) 吸収した放射線が人体にどれだけ影響を与えるのかを
考えるための、いわば指標。

これらは定義が違うので、計算式も変わってきます。

バッティングマシンを例にして解説

これは結構オリジナリティが強く、例としても結構良さそうなので披露します。

放射性物質をバッティングマシンとすると、そこから出てくるボールが放射線となります。

バッティングマシンからどれだけボール(放射線)が出てくるのか、これがベクレルに当たります。
正確には1秒間にどれだけ出てくるのかという話ですが。

バッティングマシンから放たれたボールが人体に当たったとします。
その当たった量がグレイに当たります。
ボールがたくさん投げられてきたら当たる確率も単純に高くなるので、放射能が高いというのは危険視されるわけです。

バッティングマシンから放たれたボールが人体に当たったら痛いですよね(笑)
ただのうちみ程度に収まることもあれば、最悪骨折することもあるでしょう。

そういった人体への影響を表すのがシーベルトです。

人体への影響は、放射線障害と呼ぶこともあります。

ボールの当たる量が一定数を超えた場合に起こる障害と、ボールの当たる量に比例して発生確率が高まる障害があります。
(確定的影響と確率的影響)

放射能と放射線 電気事業連合会

おわりに

放射線に馴染みのない方にも、比較的分かりやすい説明を心がけて書きました。

これから放射線のことを勉強する中高生や、改めて放射線に興味を持った方などの参考になれましたら幸いです。

イラストについては私が用意しましたので、もし引用される際は、引用元(この記事のURLなど)を記載していただくようお願いいたします。

ABOUT ME
rad-yamato
大規模病院とクリニックを経験した診療放射線技師8年目。趣味は昼寝・筋トレ・ダンス・料理・読書・ゲーム・ゴルフ・キャンプなど。ブログには新人放射線技師・看護師や研修医の方へ向けた内容や、仕事に役立ちそうな話を書いています。 公式LINEアカウントもありますので、気軽にご相談ください。