冠動脈の解剖は取っつきにくい部分があると思います。
これはおそらく、教科書などに載っている冠動脈の解剖は、前後関係が分かりづらいからではないでしょうか。
冠動脈は様々な角度で走行しているので、前後関係などの立体的位置が分かりやすい図が求められます。
冠動脈の解剖(主要3枝など)は国家試験にも出題されるので、学生の時から覚える必要があります。
無事放射線技師となりカテーテル検査に入れば、「○番に病変があるから云々」、なんて会話も出てきます。
当然、解剖が分かっていないとアームの角度も分からないです。
僕はカテーテル検査の経験はほぼ無いですが、冠動脈CTの検査・画像処理を何百件とこなしてきましたので、その経験を踏まえて解説していきます。
冠動脈とは
厚い心筋を動かすには、心臓へ酸素やエネルギー源を豊富に供給するために多くの血液が必要であり、これを冠循環といいます。心臓に血液を供給するための血管が冠動脈です。
なので、どの辺の心筋を栄養しているのか考えてみると、解剖を抑えやすくなります。
冠動脈ってどこから生えている?
そもそも冠動脈ってどこから生えているんでしょう?
冠動脈は大動脈弁から生えています。
大動脈弁はいくつありましたか?
大動脈弁は3つあり、それぞれ
- 右冠尖(RCC:Right Coronary Cusp)
- 左冠尖(LCC:Light Coronary Cusp)
- 無冠尖(NCC:Non Coronary Cusp)
という名称がついています。
冠動脈はコロナリー、大動脈弁をカスプと呼ぶこともあります。
模型を用いて解剖を解説
以前作成した冠動脈模型を用いて解剖を解説します。
VRも分かりやすいですが、実際に模型を見ると前後関係も把握しやすいです。
冠動脈の全体像はこんな感じです。
冠動脈(心臓)全体を正面から見ましょう。
イメージですが…
RCAはその名の通り右側を走行します。
LADも前側を走行します。
LCXは後ろ側を走行します。
では左右別々に見ていきましょう。
右冠動脈(RCA)
RCAは主に心筋の下壁を栄養しています。
覚える血管はこちら↓
- 円錐枝(CB:Conus Branch)
- 洞房結節枝(SN:Sinuatrial Nodal Branch)
- 右心室枝(RV:Right Ventricular Branch)
- 鋭縁枝(AM:Acute Marginal Branch)
- 房室結節枝(AV:Atrioventricular Nodal Branch)
- 後下行枝(PD:Posterior Descending Branch)
では模型を正面から見ていきましょう。
足側からも。
左冠動脈の前下行枝(LAD)
LADは主に心筋の前壁、中隔、心尖部を栄養しています。
幅広く栄養していることが分かりますね。
覚える血管はこちら↓
- 中隔枝(SB:Septal Branch)
- 第1対角枝(D1:First Diagonal Branch)
- 第2対角枝(D2:Second Diagonal Branch)
中隔枝は複数本生えています。心室中隔に向かって生えるので中隔枝です。真下に伸びるようなイメージです。
Diagonalは「ダイアゴナール」と呼ぶ人もいれば「ダイゴナール」と呼ぶ人もいます(僕は後者です)。近位側から順にD1、2です。
では模型を左側から見ていきましょう。
左冠動脈の回旋枝(LCX)
LADは主に心筋の側壁を栄養しています。
覚える血管はこちら↓
- 鈍縁枝(OM:Obtuse Marginal Branch)
- 後側壁枝(PL:PosteroLateral Branch)
では模型を背中側から見ていきましょう。
冠動脈の解剖を覚える際のポイント
走行する場所は?
RCAは右房室間溝、LADは前室間溝、LCXは左房室間溝を走行します。
主冠動脈はそれぞれ「溝」を通る、ということを意識しておくだけで、覚えやすさが上がります。
PDも後室間溝を通ったり、中隔枝は中隔を通るなど、栄養する場所と走行する場所を組み合わせて覚えるのがポイントです。
サークルとループ
主冠動脈はそれぞれサークルとループを描いています。この関係を抑えると分かりやすいです。
先ずサークルですが、房室間面を指します。
前述の通り、左右の房室間溝をそれぞれRCAとLCXが走行しています。この2本が円を形成しているわけです。
次にループですが、心室中隔面を指します。
LADは心室中隔の真上を走行しているわけですが、基部から心尖部に向かって弧を描きます。
余談
「サークルもループも円では?」と思った方に解説。
loopをロングマン現代英英辞典で調べてみました。
a shape like a curve or a circle made by a line curving back towards itself, or a piece of wire, string etc that has this shape
loop of wire/rope/string etc
サークルのような形、と書いてありますね。サークルは完全な円、ループはそれに近い形、という意味だと考えられます。
RCAとLCXで(正確にはほぼ)完全な円を描いているが、LADはあくまでも円ではなく弧、というのが分かるかと思います。
当然冠動脈も人によって違う
人体の基本的な解剖は概ね人に依りません。
ですが、完全に一致しているわけでもありません。
特に冠動脈は大きく右と左に分かれており、どちらかが優位に発達することがあります。これにより、人によって冠動脈の生え方が異なってきます。
この点を理解していないと、冠動脈の解剖は混乱します。
右冠動脈が優位に発達している場合を「R Dominant」、左が発達している場合を「L Dominant」と呼ぶことがあります。
AHA分類とは
解剖が分かったところで、次はAHA分類です。
(解剖とAHA分類、まとめて覚える方が効率が良い場合があります)
AHA分類とは、1975年にアメリカ心臓協会(AHA)から出された冠動脈分類のことです。
冠動脈を15区域に分類しています。
番号は通常、”#”を使って表記します。
例えば冠動脈12番であれば、#12と表記します。
RCAのAHA分類
右冠動脈は#1~4まで存在します。
右冠動脈起始部~AM起始部までが#1と#2です。
その境目は右冠動脈起始部~AM起始部までの中間地点です。一般的にはRV起始部を指します。
AM起始部~PD起始部までが#3です。
PDとAVに分岐していれば、それぞれ#4PD、#4AVといいます。
LADのAHA分類
左冠動脈の主幹部(LMT)を#5としています。
LADは#6~10まで存在します。
左冠動脈起始部~LADとLCX分岐手前までが#5です。
分岐~末梢までが#6、7、8です。
その境目は、D1とD2です。
D1のことを#9、D2のことを#10とします。
LCXのAHA分類
LCXは#11~14(+15)まであります。
LADは#6、7、8と続きましたが、LCXは1個飛ばし(奇数)です。
どういうことかと言うと…
LMT~OMまでが#11、OM~PLまでが#13だからです。
OMのことを#12、PLのことを#14とします。
PDが左冠動脈から生えている場合、#15PDとします。
つまり、LCXは#11、13(、15)の1個飛ばし(奇数)というわけです。
左右の優位性について前述しましたが、L Dominantの場合、PDの役割を左冠動脈が持ちます。このとき、PDは#4PDではなく#15PDとなります。
おわりに
先ずは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
冠動脈の解剖は一見難しそうにも見えますが、ポイントをしっかり抑えておけば覚えやすくなります。
この記事を読んで分かりにくい部分があれば、ぜひご連絡ください。